Overview
入金はユーザーが取引を開始するための必須ステップであり、プロダクトの中核となるコンバージョンポイントです。2回のユーザビリティテスト結果の分析をもとに、銀行振込フローのUI改善と設計案の検証を担当しました。その過程で明らかになったのは、問題の本質が「UIの複雑さ」ではなく「メンタルモデルのズレ」にあること。短期的なUI改善と並行して、この発見がアプリ内完結型入金のロードマップ追加を推進しました。
- Problem
- 銀行振込フローで多くのユーザーがつまずき、入金完了率に影響していた
- Goal
- UIリニューアル後のフローを検証し、ユーザーが銀行振込を完了できない原因を特定・改善する
- My Contribution
- テスト結果の分析、UI改善の主導、検証用プロトタイプの設計提案
- Outcome
- 銀行振込フローの認知課題を特定し、短期的なUI改善を実施
- 検証結果をもとに、アプリ内チャージ機能のロードマップ策定に貢献
Problem
今回のUIリニューアルは、暗号資産の初心者層にも使いやすいプロダクトを目指して実施されました。テストのターゲットユーザーは、その想定ユーザーである、アプリ操作に不慣れな40代前後の日本人男性です。
スマホの操作は普通にできるけど、お金のことはよくわからない
田中 誠
- Age
43
- Job
中堅メーカー勤務・会社員
- Income
550万/年
決済習慣
普段は現金・クレジットカードが中心。スマホ決済はPayPayを使っている
金融リテラシー
ネットバンキングは口座確認程度に使う。投資や資産運用の経験はない
暗号資産
名前は知っているが、買ったことはない。始めてみたいとは思っている
デジタルリテラシー
SNSや動画アプリは普通に使える。ただし新しいアプリの操作に慣れるまでは時間がかかる
第1回ユーザビリティテスト




テスト結果を分析すると、同じ入金機能でもクイック入金はスムーズに操作できていましたが、銀行振込フローだけは明確な失敗ポイントとして浮かび上がりました。
- アプリを離れ、銀行アプリやATMで操作する必要があることを理解できない
- 次に何をすればいいかわからず、画面内の要素を繰り返しタップし続ける
- 説明テキストが表示されていても、ほとんど読まない
6名全員が、銀行振込フローを独立して完了することができませんでした。
Insight
テスト中に重要な気づきがありました。進行役が銀行振込の概念を口頭で説明した後、同じユーザーがWebブラウザ版の画面をスムーズに操作できたのです。問題はUIの複雑さではなく、概念の理解にある可能性が見えてきました。

第1回テストで観察されたユーザーの行動と、この気づきをもとに、2つの仮説を立てました。
UIをよりシンプルにすることで、ユーザーが銀行振込の概念を理解しやすくなるのではないか
ターゲットユーザーにとって「入金=アプリ内完結」。銀行振込のように「アプリを離れて銀行で手続きする」操作は、メンタルモデルの外にある
この2つの仮説を検証するため、第2回テストに向けて2つの方向性でプロトタイプを準備しました。
Approach
方向性A:銀行振込画面を改善
第1版のデザインは装飾的なカード型UIとボタンに見える非インタラクティブな要素を使っていました。テスト結果から、これらがビジュアルノイズとなってユーザーの注意を分散させており、またボタン風の装飾がユーザーの誤タップを誘発していると判断しました。
第1版デザイナーと協働しながら、口座詳細画面のシンプル化を主導しました。装飾的な要素とボタン風UIを撤廃し、振込に必要な情報だけをリスト形式でシンプルに提示する構成へ変更しました。
Before
After
なお、チームの判断により、口座詳細画面の前に振込の仕組みや注意事項を伝える5秒間のアニメーションが追加され、第2回テストで併せて検証することになりました。




方向性B:アプリ内完結型入金
仮説2を検証するため、PayPayのUI体験を参考にアプリ内で入金操作が完結するプロトタイプを作成しました。正式案ではなく、操作パラダイムをユーザーのメンタルモデルに合わせることで障壁が消えるかどうかを確かめるための検証用プロトタイプです。



Validation
第2回テスト(参加者6名)では、2つの方向性を同一セッション内で検証しました。
入金タスクの完成率
方向性A:銀行振込画面を改善
フローと画面を改善し検証した結果、以下のことが明らかになりました。
- アプリ操作に慣れた参加者1名は理解できたが、ターゲットユーザー層には届かなかった
- 5秒アニメーションはユーザーに視聴されたが、操作意図を理解することはできなかった
- 画面上にタップできる要素がないにもかかわらず、ユーザーは次のアクションを探して画面内をくり返しタップし続けた
UI簡略化だけでは根本的な障壁を解消できませんでした。障壁はUIの複雑さではなく、操作パラダイムのズレにありました。
方向性B:アプリ内完結型入金
参加者は直感的に操作を理解しました。操作パラダイムをユーザーのメンタルモデルに合わせることで、説明なしでも障壁を取り除ける可能性が示されました。
Solution
テスト結果は、銀行振込の認知的な障壁をUIだけで解消することの限界を明確に示していました。対応は2段階で進めることになりました。
短期:銀行振込フロー内にオンデマンドのガイドを追加
困惑したユーザーが自然に辿り着けるよう、画面上の唯一のタップ可能な要素をGuideへの入口として設計しました。Guideは操作ステップのみに絞り、ユーザーが自ら助けを求めたときにだけ介入します。なお、第2回テストではリスト形式で検証しましたが、リリース版では経営層の判断によりカード形式へ変更されました。





長期:アプリ内完結型入金のロードマップ追加
ユーザーテストで仮説が裏付けられた後、事業部およびエンジニアリングチームで実現可能性と優先度を検討した結果、中長期施策としてプロダクトロードマップに追加されました。
Reflection
このプロジェクトで学んだことは、「正しい判断を持っていること」と「チームを動かせるデータがあること」は別物だということです。
5秒アニメーションをめぐる判断の分岐では、私は第1回テストの結果をもとに反対意見を述べました。論拠は成立していましたが、チームが方針を変えるためには、実際のテスト結果を目にする必要がありました。
次に同じ状況に置かれたなら、「強制的な情報提示が有効かどうか」という論点をデザイン判断の段階で仮説として明文化し、小規模なプロトタイプ検証でチームと対話する形を取ると思います。判断は経験から生まれますが、合意はデータから生まれます。
